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飲んではいけない薬

[2019.02.06]

いまの世の中、スマホで検索すれば情報は山のように手に入れることができます。

私も日常生活でちょっと気になったことや思い出せないことなど、すぐにスマホでしらべる習慣ができてしまっています。

クリニックをやっていると雇用に関することや、クリニックを運営するうえでの法律関係のことなど、勤務医時代には全く関わらなかったことを自分で処理する機会も多くあります。そして、その多くをネットで調べて対応することができ、なんとありがたい世の中だと思っています。

ただこの数年で感じたことですが、ちまたで広まっている医療情報の不確かさがはんぱないことになっています。

「飲んではいけない薬」

みなさんこの見出しを見たことあるんではないでしょうか。

おそらくそこにはコレステロールを下げる薬、高血圧の薬がまっさきに並びます。

 正直いってこれらが本当に飲んではいけない薬なのかは私には分かりません。たとえば薬を飲んで副作用が出た場合はその人にとってそれは飲んではいけない薬になります。

ただ私たちはそれが患者さんのメリットになると信じて処方しています。

信じる根拠は病院の医師と製薬会社が作った数万人を対象にしたデータにあります。

そのデータが示すのは、薬を飲むことで10年間の心筋梗塞を発症する確率が8%から6%に下がる(ただの例です)といった程度のものがほとんどであり、一見たいしたことないように思えます。しかし下がることは下がるのです。それぞれのデータの正当性は常に注意するところではありますが、現代の医学はこういったデータから得られた証拠(エビデンス)に基づいた医学(EBM:Evidence based Medicineと呼びます)で成り立っています。

その患者さんの所属する母集団に対して効果が見込まれる治療を行うわけで、それが必ずしもその患者さん個人にとって有益かどうかはやってみないとわからないのです。

話が脱線していきますが、理想の医学はひとりひとりに適したオーダーメイドの治療です。これをPrecision Medicine(精密医療)と呼びます。

EBMの母集団をどんどん細かくしていけばPrecision Medicineになるわけではありません。Precision Medicineを可能にするのは圧倒的なビッグデータとその解析力です。

EBMが仮設を実証することで成り立っているのに対して、Precision Medicineはビッグデータからスーパーコンピュータで解析を行って個人を対象にしたオーダーメイド治療を行うことになります。アプローチ方法が異なるのも興味深いですね。

イメージとしては、患者さんに関する一見病気と関係ないような情報もすべて入力していくと、コンピュータがその患者さんが極めて高確率に効果を得られる固有の治療を選択するという感じです。いまのAIの進歩をみているとそんなに遠くないのかもしれません。

話を戻して、「飲んではいけない薬」の見出しで始まるネットや雑誌の記事です。高齢者には必要ないのではないか、など納得できる文章ももちろんあります。高齢者の薬の種類を減らすことは間違いなく重要です。

私も処方する薬を何とか減らしたいと思いながらいつも苦労しています。そういったときにはEBMが逆に足かせになることもあります。こういった状態の人にはこの薬を処方したほうがいいとされていればそれを出さないことが罪悪のように感じてしますからです。

問題なのは、信じがたいような副作用を触れ回っている記事です。聞いたことがないので本当か嘘かも言いようがありません。コレステロールを下げること、血圧を下げることは有害でしかない、と何の前提もなく断ずる文章もどこから反論したらいいかわからなくなります。

今テレビでも健康に関する番組はほぼ毎日ゴールデンタイムで放送されているくらい国民は健康に興味があります。そして世界で一番処方されている薬が高血圧の薬、そして二番目がコレステロールの薬と言われています。これに対してアンチな発言をすれば読者の興味をひけて、読んでもらえる、それだけのために書かれた文章としか私は考えていません。

 EBMで示されたものを否定し、独自の理論を語るのは、その人が作ったPresicion Medicineなのかもしれません。ただ私はそこに何の正当性も感じることはできません。

みなさんがメディア、ネット、雑誌で医学に関する情報を得る際には、少し距離をおいて情報と接することをおすすめします。

ただ今の常識が10年後には非常識になっている可能性もあります。私たちにできることは今良いとされていることをやるだけなのです。

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